春のうららの

トモンド・K

散歩好きの私は、暇さえあれば隅田川のほとりを歩きまわる。運動不足解消のために歩くというのもひとつの理由だが、そこにいる動物たちを眺めながら歩くのがとても楽しくて、心が安らぐのだ。同じ街でいろんな生き物が共に暮らしているのだなとあらためて実感し、豊かな気持ちにもなれる。

近所の路地裏に長年住みついている顔見知りの黒猫と挨拶を交わしつつ、隅田川下流に架かる両国橋に足を向ける。橋のたもとから、犬の散歩途中の人々とすれ違いながら、川岸に整備された遊歩道“隅田川テラス”に降りる。そこから下流に向かい20~30分かけてゆっくり歩くのが、お決まりのコースだ。

今年ももうしばらくすると、ボラの稚魚たちが姿を見せるはずだ。春から初夏にかけて、東京湾から隅田川上流に向け遡上するのだと聞く。春先に、護岸沿いの手すりから身を乗り出して川の中を覗き込むと、小さな魚群が水中できらきら輝いているのが見えるのだ。

そんな小魚たちを狙ってか、カモメ、カモ、サギなどたくさんの水鳥たちも集まってくる。よく目にとまるのが、カワウ。「鵜」である。川面にぷかぷか浮いていたかと思うと、ひょいと水中に潜り、ずっと離れた場所にぴょこんと浮かび上がる。空が飛べて、川で泳げて、あんなに長い時間潜水もできるなんて、うらやましい限りだ。

川を眺めながら歩いていると、飽きることがない。テラスに上がってきて毛繕いをするカモのしぐさが愛らしく、思わず立ち止まって見入ってしまうこともある。

鯉かスズキか、60-70cmはあろうかという大きな魚が、水面にぬうっと姿を現すことも。雄姿をアピールするかのように、体をくねらせ大きな尾びれを立てて見せた後、ゆっくりと水の中に戻っていく。

そうかと思えば、大きな二匹のエイ(!)が連れ立って優雅に川を遡って行くのを見たこともある。尾びれ(尻尾と呼ぶんだろうか)を含めると、間違いなく1mはあった。朝8時30分頃だったかな、満潮の時間だったはずだ。潮に乗って泳いできたののだろうか。だとすると、引き潮の時間になると海に帰るのだろうか。とにかく驚いた。河口までおよそ3kmの場所だった。東京湾には、エイがたくさんいるのだろうか。

その昔、隅田川には「清流」と表現されるほどに美しい水が流れ、流域にはもっともっとたくさんの生き物が生息していたという。昭和の高度成長期に、工場の排水や生活排水による汚染が進み、そこにあった豊かな生態系は、跡形もなく消え去った。私が子供のころ、隅田川といえば「公害」、「悪臭」、「汚い川」というイメージしかなかったのである。その後、長い年月をかけて行政や地域の人々が努力を重ねて水質改善、環境改善に取り組んだ結果、少しずつだが着実に川がその命を取り戻しているように感じられる。人々が費やしてきた努力に感謝し、その努力に応えて戻ってきてくれた生き物たちに感謝するばかりである。

隅田川テラスには、桜の木が並ぶ花見スポットもある。んー、春が待ち遠しい。

=追記=

今年も桜がきれいに咲きました!(2019年4月)

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